Q60.【愛】とは何か?

A.【愛】は交替する母子行動

 6番目の基本感情が愛です。
 愛は、興味に母性本能、すなわち、血縁淘汰の原理による変形が加わり、さらに拡大され同胞に広まったものです。興味から状況による分岐をした感情です。
 愛は、恋人同士の愛だけでなく、家族愛、親子愛、兄弟愛、人類愛、友情も含まれます。また、尊敬、崇拝なども愛の一種です。
 人における愛の行動は相手のためになる何かをすることです。あるいは、許容し、そばにいて受け止めてあげようとします。無意識の義務感があって、相手に何かしてあげようとする気持ちが愛なのです。
 それらは母子の関係にあった、愛を与える母と受け取る子供、この二種を同時に発現させたものです。人類は子供のまま大人になるネオテニーの傾向があるため、子供の感性が失われずに大人にまで残ります。子供として母に頼る感性――甘えも失われないままとなり、大人として人に与える愛と共存させたのです。大人同士の愛とは、両者が交互に母と子供としてふるまうものなのです。
 赤ん坊には親の愛が不可欠ですし、成人でも友情は生存に有利となります。愛は集団の維持につながるのです。子供の世話をするほとんど動物に愛の行動があります。大きさや細かさが異なりますが、愛の感情があると考えてよいでしょう。
 愛は母性本能──すなわち、本来女性のものです。そのため、平均すると女性に強く現れます。また、親子は永遠に親子──すなわち、愛は永遠たり得るのです。
 進化の歴史上で、愛が子供以外に広まるには条件があります。個体の能力差に関係なく、運不運の大きい食事を行う動物においてこそ愛が発達するのです。そうした動物では、他を助けることによる利益が大きいためです。
 たとえば、吸血コウモリは、吸った血を仲間に分け与えることが知られています。そのとき、血縁には関係なく、以前に血を分けてくれた相手に分け与えるのです。これは、愛の行動でしょう。
 類人猿には、愛着の行動が見られます。類人猿の毛づくろい、口移しは、人類の愛撫とキスに対応しています。抱擁などはまったく同じことが行われます。
 愛が発生するきっかけは、赤ん坊のような可愛い存在か、生活における共同者、恋人同士、夫婦、親子のように利害と生活をともにすることによります。仕事の同僚でも、愛は発生しやすいものです。同性の場合は、多く友人関係となり友情と呼びます。
 自分と似ている人、趣味、性格、価値観、しぐさ、容姿などが共通していると愛をいだきやすくなります。世界で最も似ているのは自分の子供だからです。似ている人に何かをしてあげたいと感じるのです。夫婦、親子、兄弟といえども、利害や生活が共通しないと愛のないこともあるわけです。
 愛には手順があります。
 第一段階は、好きという興味の感情により相手の探索が行われます。この時期、相手のことを知ろうとして、相手の好きなことを好きになろうとしたりします。
 第二段階は、試しの行動が行われます。相手の嫌がるようなことをして、どのぐらい自分が受け入れられるのかを試そうとします。仲良くなるとジョークが飛び交うようになるということです。
 恋人同士の愛では、さらに愛着の行動が行われます。恋人同士はいちゃいちゃした子供っぽい行動をします。これは交替する母子行動であり、ときに母となり、ときに子供となるのです。恋人に口をあけさせて食べ物を食べさせてあげようとすることなどは、そのものと言えるでしょう。恋人はまさに「My baby」なのです。キスは、母が赤ん坊に食べ物を吐き戻して柔らかくして与える原始時代の習慣の変形と考えられています。愛撫などのスキンシップは、本来、赤ん坊を安心させるための行為です。手をつなぐのも母親と幼児の行為です。これらの行為をすると、子供のころの母の愛の記憶がよみがえり、それが今いる恋人へ向かうことにより、愛の感情記憶が形成されるのです。
 養子に迎えられた子供も、新しい親にたいして赤ん坊のようにふるまうことがあります。泣き出して駄々をこねたり、既に必要もないのにおむつをしてもらいたがったり、母乳や哺乳瓶を求めたりするのです。血縁がなく、自然に母子行動を経験しない他人同士は、親子のように深い関係になるために母子関係をなぞる必要があるのです。こうしてこそ愛の感情記憶が形成されるのです。