語り得るものはすべて語り尽くさねばならない

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Darwinism Psychology
(2001年出版書籍の全面改訂版、現在、英語へ書き換え中)

心の謎にすべて答える

 この本は、心理学で扱われるテーマ、愛、勇気、性格、思考、記憶などさまざまな心の謎のすべてに、明解な解答を提示します。それは何なのかという根源的な問いに答える本です。
 この本で列挙された問いのほとんどは、科学的な結論が出ていないものです。それどころか科学的な議論の対象にならず、哲学で議論されているだけのものもあります。そうした最先端の研究テーマを、ダーウィニズム、すなわち生物進化の観点から考察すると、どのような解答が得られるか提示した本が、この『ダーウィニズム心理学』です。
 もちろん、ただ心理学と生物学を研究を紹介するだけでは、心の謎のすべてに答えることはできません。
 そこで登場するのが、ダーウィニズムの観点から生まれた三つの理論です。
 
1.感情のロジック・ツリー理論(系統発達の原理)
2.意識のトポロジカル・ループ理論(四段階の幾何学的構造)
3.言語の意味の身体運動感覚説
 
 感情のロジック・ツリー理論は、この本の最も重要な理論です。
 ヒトが持つさまざまな感情は混沌した曖昧なものではなく、それぞれが進化、発達して分岐し、感情全体としては樹形図の構造を持つという考えです。生物進化、個人発達のどちらでも同じなのはこれは論理関係だからです。すなわち感情の論理構造を提示する理論です。著者独自の考えであり、この考えを発表して十五年になりますが、未だあまり知られていないのが残念なところです。
 意識のトポロジカル・ループ理論は、意識のしくみを機械的な構造で説明する理論です。
 この本では、無生物回路、生物回路、知覚意識回路、思考意識回路という分類を提示します。古代においてアリストテレス荀子が4段階の違いを主張したものの、それがどういう原理に基づくのかについての考察はありませんでした。この理論もこの本独自の考えであるといえるでしょう。
 言語の意味の身体運動感覚説は、1と2の考えの根本にあるべきものです。
 私は1の感情の系統発達の原理を分析したときに、感情を身体行為という観点から整理できることに気づきました。そして、それがあらゆる語彙にも可能ではないかと考え調べると、すでに多数の研究者たちにより類似の指摘がありました。生物学者ユクスキュルの意味のトーン、心理学者ギブソンアフォーダンス、哲学者廣松渉の用在論、論理学者フレーゲの意義などです。言語学における記号論にも類似する考えがあります。

この本の目的について

 この本の目的は、前に述べた3つの理論を主張することにあります。そしてその方法は、アブダクションと呼ばれる、仮説推論の方式を用いています。
 論理思考には大きく3つの方法があるとされます。演繹推論、帰納推論、仮説推論です。
 演繹推論とは、確実な論理を積み重ねて推論する方法です。
 AならBである。BならCである。故にAならCである。
(例)よく勉強すれば成績がよい。成績がよければ大学に受かる。故によく勉強すれば大学に受かる。
 帰納推論とは、広く一般の出来事を集めてそこから共通する点を取り出して法則化するものです。
 CのときAはBだった。DのときAはBだった。EのときもAはBだった。故にAはBであるに違いない。
(例)数学で彼は成績がよかった。英語でも彼は成績がよかった。物理でも彼は成績がよかった。彼はどの科目も成績がよいに違いない。
 仮説推論とは、最初に仮説を置いて説明する方法で、科学的発見の推論法と考えられています。
 AならばBはCである。AならばDはEである。AならばFはGである。事実BはCだったし、DはEだったし、FはGだった。故にAは正しいに違いない。
(例)彼が賢ければ数学の成績がよいだろう。彼が賢ければ英語の成績がよいだろう。彼が賢ければ物理の成績がよいだろう。事実、彼は数学、英語、物理の成績がよかった。彼は賢いに違いない。
 仮説推論では、説明すべき範囲において、事実に合致することが多ければ多いほど信頼性が増します。
 この本で示される上記3つの仮説は、心全体に関わる理論です。ですからこの本は、その信頼性を主張するために心のすべてを扱います。「語り得るものはすべて語り尽くさねばならない」のです。

本の構成

 図1は、脳の各部分のつながり方を示した図です。脳とは配線のかたまりで、この図ではだいたい時計回りに信号が流れています。
 図2は、感情が分岐、成長する手順を示した図です。縦に線が長いものほど古い感情で、上から下に時間が進んでいます。
 第1部では、記憶、言語、論理の種類としくみについて述べます。記憶のしくみを知ることで、記憶の効率化についてのヒントを得ることができます。また、言語のしくみを知ることは、外国語学習に役立つでしょう。論理のしくみを知ることは、物事を正しく理解し、真実を見抜く技術を得ることができます。
 第2部では、感情のしくみとその進化発達、性格などについて述べます。人間の行動について理解することができます。
 第3部では、意識と心、生や死など根源的な問題について述べます。哲学的問題に解答するだけでなく、最もスケールの大きな思索が繰り広げられます。
 学問の種類で分類すると、Q1からQ10は、神経科学、認知科学、Q10からQ28は、分析哲学認知言語学、科学哲学、論理学、Q29からQ78は、進化心理学発達心理学社会心理学、Q79からQ81は、性格心理学、Q82は性格心理学、臨床心理学、精神医学、Q83からQ85は、生物学、進化論、神経科学、Q86からQ99は、神経心理学、認知哲学、Q100とQ101は、物理学、認知哲学で研究されているテーマです。
 この本は、ダーウィニズムを基礎とした論理的な推論を展開し、それぞれの研究に対して数多くの新しい考えを提唱しています。しかし、科学的研究に不可欠である証明実験はなく不完全なものです。今後、研究者による科学的な検証が行われることを期待しています。

この本の由来

 この本は、1998年フーコー研究論文コンテスト最優秀作『7つの記憶、7つの感情』の出版作である、2001年の『ココロを動かす技術、ココロを読み解く科学』の最新改訂版になります。
 前著は広範な内容を扱っていたため、何が言いたいのかわかりにくいという意見が多くありました。そこでこの本では、主張をわかりやすくするためにQ&Aの形式にしてあります。個々のページで言いたいことは、Q&Aの内容そのものです。本全体で言いたいことや、この本はなぜ書かれたのかなども、誤解が生じないようにここに述べておきました。
 大事なことなので二度言いますと、1.感情のロジック・ツリー理論、2.意識のトポロジカル・ループ理論、3.言語の意味の身体運動感覚説、この三つを提唱するのがこの本を執筆した目的です。
 またこの本では、心に関する基本的な部分についてのみ答えることとしました。個人が集まった社会の問題、例えば、芸術、差別、神、いじめ、犯罪、国家、戦争、経済なども心に関する重大な問題ではありますが、この本の内容から解いていくことができる派生的な問題なので、割愛してあります。

 **Preface. Whereof one can speak, thereof one must speak completely.