Q22.推論するとき脳で何が起こっているか?

A.脳の類推・演繹・帰納推論の回路

 何を考えるかが決まれば、次はそれを考える作業です。それは思考ループで情報を変換することです。
 思考ループに入った情報は、変換されるか、そのまま保留されます。保留した情報が複数あれば、その情報をつなげたり、共通する部分を残したりできます。それらの組み合わせが、類推、演繹、帰納などに相当します。

類推と演繹
 ある事柄の変化法則を、他の事柄に当てはめることによります。
 たとえば──猫は哺乳類である。哺乳類は子供を生む。猫は子供を生む。
 これは、次のように表現できます。AはBである。BはCである。AはCである。
 脳の作用は次のようになります。A→Bの変換が思考ループで維持されます。B→Cも同様に維持されます。二つが同時に維持されるとA→B→Cの二重の変換が成立します。この真ん中を省略することにより、A→Cとなり類推は完了します。
 認知心理学の実験により、記憶には初頭末尾効果があることが知られています。一連の事柄を覚えると、最初と最後が強く記憶に残るのです。類推でも自然に最初と最後が残り、途中は省略されるのです。
 演繹推論は、これにカテゴリーのエラーなど、検証を加えたものに相当します。
 ペンギンは鳥である。鳥は空を飛ぶ。ペンギンは空を飛ぶ。
 ペンギンは空を飛びませんから、矛盾です。ペンギン→飛ばないという知識がありますから、ペンギン→飛ぶと矛盾し、否定されます。
 
帰納推論
 たとえば──からすは鳥であり翼がある。鶏は鳥であり翼がある。鳥には翼がある。
 これは次のように表現できます。AはBに含まれCをもつ。DはBに含まれCをもつ。BはCをもつ。
 これらはそれぞれ、A→B→C、D→B→Cの変換が思考ループで維持されます。次に、入力の多かったループ部分を検出します。A→B→C、D→B→Cの共通部分のニューロンB→Cは、より発火量が多くなります。全体のニューロンの活動を低下させれば、B→Cだけが残ります。
 これを検証することにより帰納推論となります。検証は、既に記憶にある他の変換を引き出して、矛盾がないかを調べることです。
 馬は哺乳類で足が四本ある。牛は哺乳類で足が四本ある。哺乳類は足が四本ある。しかし、人間は哺乳類で足が二本ある。
 二本と四本は異なりますから、これは誤りとなります。
 類推も帰納も記憶が重要です。既に獲得されている記憶が多ければ帰納推論は正確になりますし、類推も豊富になるのです。頭の良さには、記憶の多さも必要なのです。