Q23.論理的な推論とはどんなものか?

A.論理的推論−調査・帰納・演繹・反証の弁証法サイクル

 人間の脳には帰納、類推、演繹といった論理回路が組み込まれているわけですが、それにしては世の中に非論理的な人が多すぎると感じるのではないしょうか。
 みんなが論理回路を持っているのに論理的な人が少ないのは、その使い方を知らない人が多いからです。せっかく論理回路が脳にあっても、使い方が正しくないと論理的に推論することはできないのです。ここでは、論理の基本的な使い方、適切な手順を述べることにしましょう。
 その手順は、調査、帰納、演繹、反証の4つからなります。
 
1.調査(データの収集)
 帰納推論にしろ類推にしろ、その正確さ豊富さは記憶量に依存しています。従って、正確な情報を多く集めることがすべての推論の基礎になります。インターネットや図書館での書籍収集、フィールドワーク、科学実験などのことです。
 ここにはどんな視点から情報を集めるかの問題があります。視点には、空間軸で2つ、時間軸で2つ、そしてそれ自体の計5つの種類の視点があります。
 空間軸の2つとは、同じカテゴリーの対象を比べる a.比較の視点と、問題の内部構造を探る b.構造の視点です。
 時間軸の2つとは、その問題にいたる時間変遷を追う c.歴史の視点と、いろいろな対応策による効果を推定する d.実行の視点です。
 それ自体とは、それ自身の立場に立ってみる e.体感の視点です。
 たとえば、日本の犯罪の増加が主題だとします。
 この場合、a.は世界の犯罪状況、b.は犯罪が起こるメカニズムの分析、c.は日本の犯罪についての歴史、d.は対策が実行された場合の結果研究、e.フィールドワークとなります。こうした資料を集めることで、法則性を見いだすためのデータを得ることができます。
 これらの内、d. と e. は他と位置づけが違います。e.は問題そのものを問い直す役目を持ちます。d.は結論として最終的な力があります。d.の視点がないと定義論争になりやすいものです。
 一般に、学問は集めるデータの種類で縦割りになっているため、他の学問のデータを使うことを排斥する傾向があります。そのために4種のデータの内の1種しか使わない不確実な分析になりやすいので注意が必要です。それぞれの範囲の内容を考えると、a.社会学、b.心理学、c.歴史学、d.法学、e.人類学と学問が別々になっていることに問題があります。学問は手法で分類されるべきではなく、問題で分類されるべきなのですが。

2.帰納帰納と仮説形成)
 データを種類や内容で分類し、その共通項から帰納推論し、仮説を形成します。
 直観的にデータもなく突然に仮説思い浮かぶ“ひらめき”も、帰納推論に相当します。データ数の非常に少ない確実性のない帰納推論や、その帰納されるデータが意識されない場合を“ひらめき”と呼ぶのです。
 ここで大事なことは仮説を複数立てることです。仮説を一つしか立てないと、その仮説に固執して盲進する研究になりやすいのです。特に、データが不完全な場合は、一つではなくあり得る仮説を徹底列挙し、それを検証によって消去する仮説列挙−消去法が必要です。
 シャーロック・ホームズの言葉、「不可能を全て消去した後に残るものこそ、それがどんなにありえないように見えることであろうとも、真実である」は論理思考においても有効です。ただし、実際に不可能をすべて消去することは不可能なので、強力な仮説を生み出す手法として価値があります。
 
3.演繹(仮説から予測を生み出す)
 仮説を実際の各種事象に適用して、検証可能な予測を生み出します。数学的計算が要求される部分。アインシュタイン相対性理論を考えたときのようなイメージによる思考――すなわち、将棋で指し手を読むときの駒の動きの思考や、ソロバン暗算でソロバンイメージを動かして考えるようなもの――もここで用います。
 ここで大事なことは、予測を生み出すことです。未だ知られていない新しい事実を予測するわけです。というのも予測がなければ、その仮説が正しいのかどうか検証することができないからです。逆に何ら予測が生まれないなら、その仮説には何の価値もないということです。
 
4.反証(予測結果を実験検証−反証検索する)
 検証においては可能な限り反証例を探さなくてはなりません。仮説の理論にかみ合わない部分、間違っている部分を探すのです。というのも、正しい理論というのは常に間違いがないということであって、ある一つの例だけ正しいというのでは駄目だからです。
 さて、検証の結果、反証例があった場合はどうするべきでしょうか。
 まず現存する他の仮説と比較します。もしより有力な仮説があるならば、その仮説は放棄すべきということです。
 しかし反証例を考慮してもなおその仮説が現存する最有力理論であるなら、仮説を放棄せずに1つ目の情報収集作業へ戻って繰り返すのがよいのです。反証例によって、よりテーマをしぼって調査することができ、より強力な仮説が生まれるのです。これこそ弁証法でいう対立と矛盾から止揚するということでしょう。反証例を探すのは、その仮説の検証のためだけではなく、その仮説のさらなる精緻化のためにも有効なのです。
 ここで注意しなくてはならないこととして、
 
1.仮説の肯定データ    ⇒ 仮説を支持するデータ
2.対立仮説の肯定データ  ⇒ 1.と相容れない仮説を支持するデータ
3.仮説の肯定データの否定 ⇒ 仮説を支持するデータを弱めるデータ
 
 この3つがまったく違う効果を持つことを認識しなくてはなりません。
 ある仮説が立てられたとします。このときの確証度を0とすると、
 1.は+1、+2など数値をプラスの方へと確証度を高める効果を持つ。
 2.は−1、−2など数値をマイナスの方へ確証度を下げる効果を持つ。
 3.は÷2、÷3など数値の絶対値を下げる効果を持つ。
 
 議論や思考において問題となるのは、「対立仮説の肯定データ」と「仮説の肯定データの否定」を混同しやすいことです。3がいくら多くても、仮説の否定そのものにはならないのです。3が大量に見いだされてもなお、2が1より小さければ1がまだ最有力説なのです。進化論などがこれに相当します。多くの反進化論者は、2と3が区別できていません。
 混乱を避けるためにもバランスシートを作って比較するのがよいでしょう。