Q44.芸術とは何か?

A.芸術とは感情の言葉である

 芸術とは、感情を生み出すものです。音楽、絵画、写真、舞台などにおいて、強い感情を生み出すものほど優れているとされます。魂を揺さぶると形容します。ただ、なぜか笑いや楽しさを生むものはあまり芸術とは呼ばれませんが。
 原始時代の芸術を考えると、工芸品、音楽、歌、絵などが思い浮かびます。感情を生み出す作用が芸術と考えると、その必要がある行動はやはり恋愛であると考えられます。相手に自分の思いを伝えるのに、言葉で説明するより、直接感情そのものを伝えれば効果的です。
 しかし、小さな子供が絵を描くのは、人に見せるためではありません。ただ描くために描きます。楽器を演奏するのも、音が出るから演奏します。これは、行為のループの作用です。描くことにより画像が変化し、それが感情を生み出し、さらにループが活性化されるためです。
 ゾウやチンパンジーも、よくわからない線の絵を描きますが、彼らは人に見せるためでなく、自分で好んで描きます。感情のおもむくまま描いているのでしょう。
 しかし、ある時点で、自分の感情によって描くだけでなく、他人に感情を伝達するように変化します。そのときから、感情コミュニケーションとしての芸術が始まるのです。

音楽
 音楽にはわれわれにいろいろな感情を呼び起こす力があります。このことの基礎にも自然淘汰があると考えられます。
 CDのカバーデザインを見て気になることがありました。それは楽器とデザインに対応する傾向があるということです。実際、ギターには空、ピアノには水などの傾向があるのです。
 楽器の音と自然界の音の対応を想像してみましょう。
 ギター、ストリングスなどは風の音でしょう。木の枝が空気を切る音のことです。人類の故郷はアフリカです。長く熱帯に住んでいた人類にとって、ある程度の風は心地よいものでしょう。
 ピアノの音は水の音、水滴の落ちる音、小川のせせらぎです。人間には水のある環境が必要で、適度の水音は好ましい環境を示すはずです。
 フルート、笛のなどは小鳥の鳴き声でしょう。小鳥の鳴き声が心地よいのは、小鳥が人間の害虫を食べること、小鳥自身が人間の捕食の対象であるなど、小鳥のいる空間が人間にとって住みやすいからでしょう。自然淘汰は農業がはじまる前の話であるから、小鳥が害鳥ということはなかったはずです。
 軽快なドラムの音は草食動物の足音でしょう。草食動物の足音を聞けば、素早く狩猟の準備をしなければならないから、興奮を生み出すことになります。リズムの速いロック・ミュージックが、女性より男性に好まれる傾向にあるのは偶然ではないと思われます。
 ベース、バスドラムなどは心臓の音でしょう。リズムがゆっくりとしていれば母の心音で、速ければ恋人の心音と思われます。
 音楽ではありませんが、チョークや爪を立てて黒板を引っ掻くと、まことに嫌な音がします。これは猛禽類の鳴き声でしょう。
 こうした、原始時代の音に対する反応、遺伝子の記憶を利用する技術が音楽であるといえるでしょう。
 ただし、必ずしも原始時代だけにこだわる必要はありません。現代なら、電車の音をまねて眠たくさせたり、車の音をまねて文字通りドライブ感を出したり、機関銃の音をまねて刺激を強めることが可能です。実際、成人するまでに体得した音にたいする反応の方が多いといえるでしょう。人によって音楽の好みが異なるのは、音楽に学習によって得るものが多いことを意味しているのです。


 歌は特殊なコミュニケーション方法です。歌は言語ではできないやり方で直接感情を伝えることができます。
 歌では言葉の本来のメロディーが無視されます。そのため、文脈がなければ、なにをいっているのかわからないことも多いものです。
 メロディには楽しいものと悲しいものがあります。声を震わせて歌う哀しい歌は、すすり泣きの声の震わせかたと共通しています。楽しい歌の調子は、楽しい時の声の調子と共通しています。メジャーとマイナーにもこうした感情表現のシステムの共通原理があると考えられます。実際、音楽を理解する脳の部位と、感情を理解する脳の部位はほとんど同じ場所なのです。
 感情に関連する音声をともなう表現には、すすり泣き、号泣、悲鳴、歓喜、甘いささやき、ため息などいろいろあります。こうした音声から感情を生み出す刺激の骨格だけを取り出し強調したものでしょう。原型をとどめないほど遺伝的レベルで歌として発達するには、時間が足りなかったと思われます。
 人間以外の動物もしばしば歌うとされます。小鳥の歌、クジラの歌です。これらの歌はすべて配偶者獲得のために行われています。また、人間の歌もラブソングが中心で、山奥の秘境には、祭りのときなどに歌を送りあって恋愛が始まる部族もあります。
 歌は感情を直接、相手に与えることができます。歌うときは自分もまたその感情に酔っています。歌う人と聞く人が、同じ感情を直接に共有できるというのは、言葉にはない強みです。男や女が相手を口説くのにこれほど有効なものはないでしょう。
 あるいは、戦争などでも勇壮なマーチが統率を強めるのにも使われます。それは狩猟民族の狩りの前の踊りと同じです。これら音楽は、人間の集団が生み出した、感情を共有させるための手段なのです。
 鳥やクジラの歌も、相手との感情を共有を目的としていることは同じですから、歌と呼ぶのです。