Q100.物質とは何か?

A.物質は波が衝突する焦点

 意識の世界を構成するのは運動感覚でした。外にあるものを知覚しているつもりでもそれは自身の行為の感覚なのです。それでは私たちが知覚しているはずのもの、見たり聞いたりするモノーー物質とは何なのでしょうか?
 辞書などの物質の定義は、質量もしくはエネルギーを持ち、ある場所を占めているものです。電子や原子はもちろん、広義には光子も含みます。
 さて、ある場所を占めているというのはどういうことでしょうか?
 その占めているところに何かを侵入させると運動が変化するということです。ビリヤードの玉の衝突をイメージするとよいでしょう。ものを見るという場合も、その占められたところから発された光を受けとっていますし、あるものを手で触る場合も、手と物質の作用があります。
 作用することができない、すなわち、侵入した方もされた方も影響しなかった場合、すり抜けたわけで、この場合、そこには何もなかったから通り抜けたと表現します。
 "ある"というのは、作用しているということ、作用することができるということです。
 この作用のある範囲を大きさと呼びます。たとえば箱の大きさは手で触って反応がある範囲なわけです。
 問題となるのは、その作用が行われていないとき物質はあるのかということです。認識するためには光などなんらかの2つ以上の存在の相互作用がなくてはなりません。物質というのは、単独では確認できないのです。そういう意味において物質とは仮説的存在であるということができます。
 物質には階層があります。分子を構成するのは原子で、原子を構成するのはクォークなど素粒子です。電子や光子も素粒子になります。
 物質とは何かということが大きく問題になったのが、ヤングの二重スリット実験です。
 一つの光源から1つのスリットを通して照らすと、その後ろのスクリーンには一本の直線を中心した光が照らされます。
 2つのスリットを通して照らすと、後ろのスクリーンには2本の直線ではなく縞模様が現れます。これは光は電磁波であるために干渉を起こすためです。
 光は光子と呼ばれ、粒子と考えられていますが、ここでは波として振る舞っています。
 この照らす光を少しずつ弱めていくと縞模様がだんだん薄くなっていきます。完全に光を消せば真っ暗になりますが、その直前にすることで最小の光、光子一粒を出すことができます。
 すると、縞模様ではなく一点の痕跡がスクリーンに残ります。
 このとき一粒の光子により一点が照らされるわけですから、一つの光子は2つスリットのどちらかを通ったと考えられます。
 ところが、この光子一粒の計測を何度も繰り返し続けていき、それを記録したものを合計すると、そこには縞模様ができるのです。一粒ずつ通過したのに干渉を起こしているのです。いったいどうしてそんなことができるのでしょうか。
 まず光一粒を発するというのはどういうことか考えてみましょう。光一粒はどのように確認しているのでしょうか。それは痕跡としての一点を確認することによります。決して、スリットを通過するのを確認したわけではありません。すなわち光一粒という考え自体に問題があるのです。
 ただ光は波として二つのスリットの両方を通して伝播したのです。このとき粒子という要素はないわけです。ではなぜその波が一点の痕跡を残すのでしょうか。
 その後の実験で、光子だけでなく電子や中性子でも同じことが起こることがわかりました。あらゆる物質に波としての要素があるのです。
 するとスクリーンもまた波としての要素を持っていることがわかります。そのため痕跡を残すスクリーンの側にも波動性があり、その波と光の波がかみ合ったときの頂点がそこに残るからです。そして、そのスクリーンの波と光の波の状態は計測する方法がありませんから、その結果はランダムになります。すると、光の波動性による干渉の結果通りの痕跡がスクリーンに残るわけです。
 相互作用する瞬間のみ粒子としての性質を見せるのだということです。そのため素粒子は位置と運動を同時に特定できません。位置がわかるときは運動はわからず、運動がわかるときは位置がわからないのです。
 このミクロの世界をイメージするならば、プールがよいでしょう。あなたはプールの外の地面すれすれからプールの方を向いてます。するとプールの水面は見えませんが、見えない水面にはたくさんの水があり、波打っています。これが数学的に波動関数によって記述される世界です。そして大きな波であったり、波同士がぶつかると頂点を作って水しぶきがあがります。このときはじめて水が見えます。これが物質というわけです。
 物質というのは波が相互作用した瞬間のことを示しているのです。物質がある位置にあるというのは、2つの波が衝突して方向転換したときに生まれる波の頂点のことなのです。
 光子といった小さな物質だけでなく、大きくて堅い鉄などの物質もその中で波立っており、それが安定した形で反復しているのです。