Q98.色はどこで感じるのか?

A.脳の意識ループで感じる

 わたしとあなたが夕日を見ているとします。その夕日の赤さは同じなのでしょうか。
 もしかして、あなたには夕日が青く、海が赤く見えているかもしれません。ばかなと思うかもしれませんが、もし──ここからゆっくり読む──子供のころから青を赤い、赤を青いと教えられて育てば、青い夕日を見ても赤い、赤い海を青いというのですから、結果として、あなたがどう感じているのか、わたしにはわからないことになるのです。
 まず、赤い色を見るとはどういうことか考えてみましょう。赤いと感じるとはどういうことかです。赤色は光の波長が決まっており、その波長に反応するニューロンが目にあります。目からは視覚野へと信号が送られます。
 視覚野にも赤色に対応するニューロンがあります。視覚野には、色のそれぞれに対応したニューロンがあり、反応しているのです。
 ここで大事なことですが、視覚野の色のニューロンが反応することは色を感じることではありません。なぜなら、もし青に反応するニューロンと赤に反応するニューロンを交換したとしても、脳の構造は同じです。いままで青に反応したニューロンが赤に反応するようになるだけなのです。環境と脳のループ構造にトポロジー的な構造変化がないのです。
 視覚野の色ニューロンからは、その色に関連したニューロンへ信号が送られます。たとえば、赤い物体に反応するニューロンに信号が送られます。赤なら、血やリンゴなどです。血に反応する細胞からは、体内の興奮を生むニューロン視床下部)へと信号が送られるます。そして、行動として興奮状態が生まれます。心理学でも赤が興奮に結び付くことが認められています。赤を感じるとはこうした作用をすべて総合したものです。
 どこに信号がきたときに赤いを感じるのかというと、空間思考のループに入ったときです。ループに入って、その信号が循環増幅されたときはじめて認識されるのです。
 この思考のループがどのような構造になっているかが問題になります。
 頭頂葉には、立体映像のスクリーンのようなものがあると考えられます。視覚から情報が、立体空間のように構成されるのです。
 頭頂葉の額側の部分に触覚野があります。触覚と視覚が融合することにより立体空間が作られます。立体空間は体を動かしてものを触り、視覚と融合させながら、体験することにより作られていくのです。
 そして、色はその立体空間にちりばめられています。
 この思考のループで、色はどのように決まるのでしょうか。
 それは経験によって獲得されます。先天的な視覚障害の人が、視力を回復する手術を受けてもすぐには見えるようにはなりません。若ければ、しばらくすると回復しますが、成人では回復は難しくなります。色でも同じです。もし、生まれたばかりの赤ん坊を、色のない世界で育てたなら色盲になります。もし、青色だけの世界で育てたなら、青色だけ知覚できる色盲になるでしょう。
 すなわち、生まれてから青の光を受け取ってきたから青の細胞なのであり、赤を受け取ってきたから赤の細胞なのです。色の決定権を握るのは脳ではなく、環境であるということです。青く見えるものは誰が見ても青く、赤く見えるものは赤いのです。
 もちろん、青が灰色に見えるというように、情報が弱くなることはあります。あなたの見る赤と、彼の見る赤は同じ濃さといえるのかというと、色覚の強さによって異なるのです。色盲なら薄くなるだろうし、正常ならほぼ同じとなるのです。
 一部の盲人には顔面視という不思議な能力があります。盲人はしばしば顔全体で周りが見えるようになると感じているのです。しかし、本当は顔ではなく、聴覚によって反響を利用して知覚していることが実験でわかっています。
 顔面視は聴覚による作用なのに、顔で見えるように感じます。視覚のように感じられるのです。聴覚野からの情報が、本来は空間思考のスクリーンとして機能するはずの頭頂葉へ送られ、そこで立体空間が視覚なしで組み立てられるためです。
 視覚も本当は二次元の情報です。ところが、わたしたちは立体として感じます。わたしたちは五感を感じているのではなく、世界を──宇宙を感じているのです。
 コウモリやイルカは反響定位という能力があります。超音波を出してその反射で空間の位置を知るのです。潜水艦のソナーのようなものです。それは、聴覚に似たものではありません。それは空間の位置の情報ですから、視覚に似たものであるというべきなのです。もちろん、白黒の視覚に相当しますし、目の視覚より分解能は低いでしょう。
 昆虫には紫外線が見えるものがいます。紫外線は何色に見えているのかというと、紫外線色であり、他の色に見えるわけではありません。わたしたちのもつ色とは異なる色なのです。
 では、昆虫の紫外線の感覚器官の細胞を、人間に取り付けたらどうなるでしょう。もし成人に取り付けたなら、取り付けた部分の思考のループの感覚となります。紫のニューロンにつなげば紫になるのです。
 生まれたばかりの子供ではどうでしょう。この場合、紫外線色になると考えられます。
 色細胞は三種類しかありませんが、その中間の色も感じることができます。色の連続的なつながりを表す色円環は、色細胞の実際の配列を示しています。ですから紫外線の細胞をどこに配列するかで、その色円環のどこにくるかか決まるでしょう。
 脳は、分類する器官です。最初は分類する能力が低いのですが、成長過程で経験する情報によって分類能力を高めていきます。最も原始的な脳では、無限の細かさをもつ宇宙を近接か逃避の二種類、すなわち興味と嫌悪に分類します。∞を二にするのです。その後、進化と成長の過程でより複雑に分類するようになります。これがすなわち感情の進化です。言語の意味や感覚の細かさも感情分岐の系統図の延長上にあります。
 これらの分類はすべて宇宙をモデルにしています。したがって、宇宙の情報を変化させることはありません。
 宇宙と生命の相互作用のループに断絶がなく一致している限り、すべての知覚は現実世界によって決定されます。わたしたちが感じるのは五感ではなく、分類なのです。何かを感じるのではなく、分類──行為についての分類を感じるのです。