Q96.心はどこにあるか?

A.心は時空間に広がっている

 私たちは自由なのでしょうか? それともすべては決定されており、意志によって変えることはできないのでしょうか?
 心理学では自由意志というものは自由感に過ぎず、錯覚であるといわれます。しかし、わたしたちは間違いなく自分の意志で判断していると感じています。何かを選ぶとき、選択肢のいずれをも起こり得るが、意志が選択することにより決定されると感じています。自分の意志しだいであり、決まっているものではないと感じる。意志は、それ以外の部分とは隔絶された別世界の存在であると。意志は、上位にあると感じられるのです。
 意志は他の部分と何が異なるのでしょうか。意志は脳で世界の予行演習を行います。一つの世界を作り出しては、取り消す。それは現実の宇宙よりも小さいが、一つの宇宙であるといえます。脳の仮想宇宙は生まれて消えるが、それにより意志が変化するわけではない。意志は変化させる存在であるが、それにより変化することはないのです。ですから、あらゆる世界より上位の存在であると自認しているのです。
 脳の仮想宇宙とは何かといえば、思考のループの情報です。自己意識を生み出すのは記憶、過去の情報です。意志を脳の仮想宇宙を比較し選び出すものとするならば、記憶──すなわち過去に意志があるといえます。過去は現在を決定するが、自らは変化しないのです。
 その過去と意志はイコールでしょうか。自分の意志に反する過去というものを考えてみましょう。嫌な思い出が障害になってできない行動がある場合などは、意志に反するといえます。過去の内、不快なものではなく、肯定的な何かを達成した経験が意志であるといえるでしょう。
 過去はどこにあるのでしょうか。もちろん、現在の世界には存在しません。しかし、過去は記憶として現在に力を行使することができます。過去は記憶によって現在に呼び出されますが、そのときに新たに作り出されるのではありません。過去は脳が作り出す幻想ではないのです。自己の脳でなく他人の脳を考えれば、それ以前から過去の出来事が存在するのはあきらかです。過去は記憶という手段によってゆるやかに作用するのです。過去は三次元世界にはすでに存在しないが、四次元として見れば間違いなく存在しているのです。
 宇宙の果て、遠く100億光年の彼方にはクエーサーという天体があります。100億光年彼方ということは、それは100億年前の情報です。クエーサーは現在に存在しているといえるでしょうか。また、シリウスなら8.7光年離れています。それは8.7年前の情報です。シリウスは本当の意味で現在に存在しているのでしょうか。すぐ目の前にいて話をしている相手といえど、少しは離れています。ですから、それもまたわずかだが過去の情報です。すなわち、情報としての存在には現在はない。主観世界には現在などはないのです。
 これは当然です。心は物質の動きの循環ですから、時間がなくてははたらかない。時間の一瞬には心はないのです。心は時間と空間に広がっているのです。