Q85.記憶とは何か?

A.記憶とは環境を参考にして成長すること

 ベルベットモンキー(ニホンザルと同じオナガザル科のサル)の研究によると、彼らには音声で信号の伝達を行っており、その種類は四〜六程度あります。
 彼らは、ヒョウ、ワシ、ヘビなどの外敵があらわれたとき、それぞれ異なる警戒音声を発します。他の群れに遭遇したときにも二種類の音声があります。
 四〜六程度の単語があるといえます。これらの単語は、音声による他者を操作する手段であるので、動詞であるといえるでしょう。チンパンジーに言語を教える研究でも、命令としての言葉──すなわち、動詞が最も簡単に習得されたのです。
 言語の始まりは動詞であり、次に名詞と動詞に分岐しました。投げかけられた動詞に素直に従うだけでは応用性がありません。状況に応じて異なる行動をする方がよい。ここに行動と音声が分離され、動詞から名詞が分岐することになります。
 品詞があるのは人類、それも現代人のみのようです。他の動物に言語を教える実験の結果を見ると、すべてが動詞だけで構成されているのです。だだ、ボノボ(ピグミーチンパンジー)のみが分離できるかもしれません。ボノボは人類と同じく特定の相手の注意を動かす指さしができます。これは相手の思考についての想像ができる可能性を示し、思考の分離があるということです。
 相手の思考を想像することが、文に主語を生み出すのに不可欠なのです。自分の思考だけなら、行動の主体は自分だけですから、主語は不要なのです。
 思考のループだけでは品詞は生まれません。品詞を生み出したのは、成長を遅らせるネオテニーです。脳の成長を遅らせることにより品詞が生まれたのです。
 動物が記憶するということは、本来、環境を参考にして成長するということです。ですから、成長が終わると新しく記憶することはほとんどなくなります。
 ところが、カナリアの歌を覚える脳細胞は、毎年死んで生まれ変わります。種によっては脳細胞といえども再生するのです。この場合、ある一部分の成長を繰り返すことにより、毎年新しい歌を記憶するのです。
 人類は異なる方法を導入しています。人類は、ネオテニーにより成長のペースを極端に遅くしています。
 人類の赤ん坊は、出産が早すぎるといわれます。赤ん坊には、生きて行く能力がほとんどありません。ところが、体の大きさは十分に大きいのです。チンパンジーやゴリラと比べても十分に大きな体で生まれてきます。それなのに運動能力が低いのは、脳の発達が体の発達に比べ非常に遅いからです。人類以外の動物は、脳をすぐに完成させるのです。
 成長を遅らせて記憶能力を持続し、さらにニューロンをわざと欠損させて、それを補おうとする作用を記憶としているのです。成長過程の補償作用を転用したのです。
 この方法だと記憶を作る場所と蓄える場所が別にできます。古い記憶が新しい記憶の邪魔にならないため、記憶容量が飛躍的に増大することになったのです。