Q74.後悔とは何か?

A.後悔は記憶システムが生み出した副作用

 無力感のメカニズムが生む効果にもいろいろなものがあります。
 愛についての無力感がせつなさです。
 愛の感情がありながら、実行に移すことができないとき、あるいはその効果が感じられないとき、せつないと感じます。片思いで愛しい人を目の前にしながら何もできないときや、子供のためを思ってしてあげたのに子供に邪険にされた母親などです。
 せつなさは、愛と無力感が同時に発生したときに生まるのです。
 無力感が最も大きいときに行われるのが、自殺です。
 人間は、どんなに悲しくとも自殺することはありません。無力感が自殺の原因なのです。自分の存在による影響力がなく、自分はいてもいなくても同じだと考えるためです。芸能人が自殺すると後追い自殺する人がいますが、この場合も悲しさのあまり自殺するのではなく、芸能人の死を止めることができなかった無力感のため自殺するのです。
 たくさんの人物が自殺する『ノルウェーの森』という小説は、無力感が見事に描かれています。そのためベストセラーになったのです。
 ただし、怒りによる自殺も多くあります。政治にたいする抗議の焼身自殺や、いじめによる自殺にも多く含まれます。「おれが死ぬのはおまえらのせいだからな」と主張しているのです。
 ここまでいかなくとも、無力感には人を苦しめる要素があります。後悔はその最も代表的なものです。
 後悔とは、過去の出来事を思い出し、その状況に希望を見いだすことです。こうしていれば成功したのだと、気づくのです。そして、過去の出来事はもはや訂正できない──当たり前である──ため、無力感を感じて落ち込んでしまうのです。
 しかし、時間の流れにたいして無力なのは誰でも同じですから、相手を間違っているというべきです。あのとき、このことを知っていればこんなことにならなかった──そう思っても、知らないのですから避けられるはずがないのです。過去を過去と見ることができず、過去を現在と混同してしまうための誤解です。後悔は記憶システムが生み出した副作用なのです。
 後悔は、将来に類似する出来事が起こったとき、過ちを繰り返さないための対策と割り切らなければなりません。