Q26.「なぜ」とは何か?

A.「なぜ」とは原因、構造、理由、目的を問うこと

 人はいろいろなことに疑問に感じます。そのときに使う言葉が「なぜ」です。
 なぜそうなるのか知りたい。なぜそんなことになったのか知りたい。飛行機はなぜ空を飛ぶことができるか。地震はなぜなぜ起きるのか。太陽はなぜ毎日東から昇るのか。彼女はなぜ僕を好きにならないのか。そう思うわけです。
 ところがここで大きな問題があります。そもそもあなたは「なぜ」という言葉の意味を知っているのかということです。「なぜ」の意味を知らずして、なぜの答えを得ることはできないのです。
 何か言葉の意味を考えるときの技法は言葉を置き換えることです。なぜそうなるのか知りたい、この言葉で知りたいことを考えるにはまず、
 
1.なぜそうなるのか○○を知りたい。
2.なぜそうするのか○○を知りたい。
 
 この○○に入ることのできる言葉を考えるのです。すると、ここに入れられる言葉としては、1なら原因、構造が挙げられます。2なら目的、理由などが挙げられるでしょう。
 すなわち、「なぜ」で知ろうとする内容は一つではなく、原因、構造、目的、理由の4つがあるのです。では原因、理由、目的、構造とは何でしょうか。

【 目的 】
 人間など意志のある存在が、Aという行為を行ったとします。このAによってBを成し遂げようしていた場合、BをAの目的と呼びます。自然現象には目的はなく、自然科学では目的は問わないことになっています。

【 構造 】
 構造は日常の言葉と同じ使い方です。AがB、C、Dで構成されているならば、B、C、Dとその配列が構造です。

【 原因 】
 ある出来事Aが起こったときに、それより過去における出来事Bがもし起こらなければAも起こらなかったと考えられる場合、BはAの原因であるといいます。
 原因には、直接的なものと間接的なものがあります。ブレーキの故障した自動車がそのために事故を起こした場合、ブレーキの異常を原因というのが普通ですが、自動車を購入したことが原因と呼ぶことも可能です。あるいは運転手の不注意であったり、運転手の技術の低さというのも考えられます。もしも本人が天性に不注意な人間であり、必ず整備など忘れることが予想されるような人である場合、ブレーキ異常より自動車購入を原因と呼ぶことが多いわけです。
 あらゆる出来事には原因となる要素が多数ありますが、原因排除時における出来事の回避率と原因の排除可能性により、その直接性と間接性の度合いが決定されます。容易に排除できるはずの出来事Bがあり、それを排除すれば確実に出来事Aが起こらないなら、BはAの直接原因であるといえます。
 原因はすべて出来事であり、物や状態ではあり得ません。“自閉症ADHDの原因は脳の異常である”とは、表現できません。脳の異常は自閉症の構造だからです。
 脳に変化を生み出した何らかの出来事がその原因になります。脳の形成時における何らかの異常、ホルモンや遺伝子の損傷などがADHDの原因なのです。あるいは、“自閉症における言語習得の困難の原因が、脳の異常のため”ということはできるし、“自閉症とは脳の異常である”ということはできます。

【 理由 】
 ある特定の出来事の“なぜ”が原因であるのに対し、普遍性のある対象の繰り返しあらわれる“なぜ”が理由です。「あの虹ができたのはなぜ?」は原因を、「虹ができるのはなぜ?」は理由を問うています。
 彼女が彼をふった“原因”は彼が優しくないことを知ったからであり、彼女が彼をふった“理由”は彼女が優しくない男を好きでなかったためです。
 ある結果Aを生み出す法則Bがあるとき、BをAの理由と呼ぶわけです。
 理由はその構造を知ることで、理解できることが多いものです。
 ダイヤモンドが硬い理由は、その炭素原子間の共有結合の多さです。硬いとは、外からの力によっても構造が破壊されないことですから、共有結合の多さが硬さの理由となるのは理解できるでしょう。

 こうした原因、理由、目的、構造は混同されることが多いので注意が必要です。