Q25.正確な情報を得るためにはどうすればよいか?

A.著者の知識の焦点をとらえる

 資料の正確さを知るには、著者の知識の焦点をとらえることが大切です。
 『新しい歴史教科書』は、その社会政治的な問題だけでなく内容に誤りが多いことも問題になりましたが、それもそのはず、主著者の西尾幹二はドイツ文学の研究者でした。
 専門、専攻でないと正しいものが書けないのはおかしいと思うでしょうか。ろくに研究していない研究者よりよいものが書けるかもしれないと。
 しかし、どんなジャンルでもしっかりと研究している研究者が必ずいます。そうした人たちと比べれて考えてみれば、人生のほとんどを日本史の研究に費やした人と、仮に半分を費やした人ではその内容に差があるのは当然のことといえるでしょう。
 人間が平等だと考えるからこそ専門家が正しいのです。アインシュタインはかつてこう述べています。私は賢いわけではなく、ただ一つのことについて他の人よりもずっと長く考えていただけだ、と。人間の能力には大きな差がないからこそ、長く一つのことについて研究していた専門家が正しくなるのです。
 知識の焦点は、必ずしも専攻とは一致しません。
 例えば、精神科医和田秀樹は精神医学より受験勉強研究のほうに焦点がありますし、経済学者の野口悠紀夫は経済学より社会人向けの学習法に焦点があり、そちらの著書の方が価値があります。
 もちろん、焦点からはずれている本に価値がないというわけではありません。絶対的な意味では価値があります。読んで無意味だったということはないでしょう。
 しかし、本の価値は相対的なものです。他に良い本があれば、質の落ちる本には価値がないのです。現代のように数え切れない数の本が出版される情報過多の時代には、良い本にのみ価値があります。
 考えてみましょう。
 現代は膨大な数の本が出版され、一生を費やしても読み切ることはできません。私たちは一生の間に、世の中に存在する本のごく一部を読むわけです。
 本を読むという行為は、時間を捨てて知識を得るということです。ある本を読むということは、ある別の本を読まないということです。つまらない本を読むということは、その時間があれば読めた優れた本を読まないということでもあるのです。
 相対的により良い本があればそちらを読むべきなのです。研究の世界では、二兎を追ってもやっぱり一兎を獲るのみ、というのが現実といえるでしょう。
 では、そうした著者の知識の焦点をとらえるにはどうすればよいでしょうか。
 それは著者の略歴を確認し、ネット上の書店や図書館などのサーチを利用してどんな本を出しているかを調べることです。専攻に関係ない本を大量に出している著者は、専攻よりも出している本のテーマに焦点があると考えた方が正解です。
 学問の細分された現在、経済学、心理学といった専門はありません。経済学ならばマクロ経済学ミクロ経済学、金融論、数理経済学、財政学、労働経済学、環境経済学など、心理学ならば、認知心理学発達心理学神経心理学精神分析、臨床心理学などがあります。
 特に注意すべきなのは二人の専門家の意見が対立しているときです。本当の専門家の意見がはっきり対立することはほとんどありません。たいていは片方が偽の専門家なのです。本物の専門家を知ることが資料を読むときには不可欠です。