Q20.言葉の意味はどのように広がるか?

A.身体運動感覚にメタファー・シネクドキー・メトニミーにより広がりを作る

 言葉の意味は、身体運動感覚のコアがあります。そしてそれだけでなく、そこから3つの法則を使って意味が広がりを見せます。
 その法則がメタファー、シネクドキー、メトニミーです。
 メタファーは、隠喩ともいい、類似する関係による表現です。"月見うどん"はうどんであって月は入っていません。卵を月に見立てているわけです。似たものに呼び替えるのがメタファーによる意味の広がり方です。
 メトニミーは、換喩ともいいます。隣接関係による表現です。"父は黒帯だ"というとき、父は人間ですから、帯ではありません。帯は父にくっついている存在です。すぐとなりにくっついているもので呼び替えるのが、シネクドキーによる意味の広がり方です。
 シネクドキーは、提喩ともいいます。包含関係による表現です。"友人に顔を見せに行く"というとき、実際にドアをちょっと開けて顔だけ見せて帰ってしまうわけではありません。会って話し全身を見せるのが普通です。全体の中の一部を取り上げて呼び替えるのがメトニミーによる意味の広がり方です。
 コアになる身体運動感覚から、3つの法則により意味が広がることで、その言葉の意味の範囲が決まります。
 例えば、"ここ・そこ・あそこ"の意味のコアは、それぞれ、話し手の手の範囲、聞き手の手の範囲、そのどちらからも外にある範囲です。
 そしてこれがメタファーにより、想像の世界にも広がります。実際の手の範囲から、自分の影響力で操作できる範囲へと広がるのです。話し手の影響下が"ここ"、聞き手の影響下が"そこ"、二人の影響の外が"あそこ"となります。
 このとき、あくまでもその身体運動感覚は維持されます。"父は黒帯だ"というとき、黒帯の持つ身体運動感覚がイメージしている父とズレがあるとこの言葉は使えません。
 シネクドキーは、モノの包含関係だけでなく、言葉の包含関係にも登場します。日本語の別れの挨拶は「さようなら」ですが、これは「左様ならば拙者、これにてお暇仕る」の全文の冒頭部分を取り出したものです。あるいは、略語などもシネクドキーの一種といえるでしょう。
 ある言葉について辞書を引くと、これらの派生的な意味もすべて網羅しているのが普通です。それらを一つ一つ覚えるのは、とても大変です。そこで、それら複数の意味を比較して、派生の元になる意味をとらえて、それを確実に理解することが大切です。
 この意味はあの意味のメタファーだからコアではない、この意味は別のあの意味のシネクドキーだからコアではない……このようにたくさんある意味をしらみつぶしにすればコアが浮き出てきるわけです。
 コアの意味をとらえることで、新しく創造的な表現を生み出すこともできます。普通ネイティヴはそう言わないけれども、言われてみるとぴったりだという表現ができるのです。詩という芸術は、新しく新鮮な言葉の組み合わせを生み出しますが、そのときもこの原理を利用して作られているのです。