Q10.言葉は脳でどのようにはたらいているか?
A.言葉は思考のループを循環する
わたしたちは、意味記憶として獲得した言葉を使って、頭の中で考えを巡らすことができます。
この言葉で考えるときの脳のはたらきを述べましょう。これも思考ですから、既に述べたように、前頭前野と聴覚連合野での信号の循環のことです。そこで問題となるのは、どのように循環するかです。
近年の脳科学の発達により、かなり細かくわかるようになりました。
たとえば「心を知ると得をする」という言葉を話すとどうなるでしょうか。
まず、「心」に対応するニューロンの発火パターンが聴覚連合野に現れます。それが前頭前野に伝わり「心、知る」のパターンを生みます。その「心、知る」は二手に分かれます。一つは聴覚連合野に帰ります。もう一つは、運動連合野で「を」と「と」が追加されて、「心を知ると」と発音することになります。
聴覚連合野に帰ってきた「心、知る」は、「得」のパターンに変化します。「得」は、前頭前野に行き「得、する」となり、運動連合野で「を」が追加され、「得をする」と発音することになるのです。
この文なら、脳で信号が一周半することになります。言葉で考えるときには、およそ動詞の数−〇.五周だけ循環するのです。
次の文を見てください。
1.警官が、血まみれになって逃げる犯人を追いかけた。
2.警官が血まみれになって、逃げる犯人を追いかけた。
この二つの文章は読点の位置が違うだけですが、意味が違います。そして、脳での作用も違うのです。
1の文章はループを半周しています。たくさんの情報を聴覚連合野を並べて、前頭葉へ送っています。それにたいし2は、「警官が血まみれになって」「逃げる犯人を追いかけた」の一周半なのです。
これらは、その言葉にどの程度習熟しているかにも左右されますので、個人個人で微妙な差があります。言い慣れている言葉、あいさつなどは、そのまま一つの動詞化することがあります。
脳における言語システムで注意すべきなのは、単語から単語には変換されていないということです。単語よりも大きな単位で変換が行われているのです。