Q87.心とは何か?

A.心とは渦循環する情報である

 その情報の流れはリレーや駅伝のようなしくみです。体の外では光子、匂いなど物質の動きや音声のような物質の波ですが、感覚器官で電気信号に変換されます。ニューロンからは電気信号と化学物質の組み合わせです。情報の流れに共通する物質はなく、リレーしながら伝える──波であるといえます。
 心には、循環があります。環境から受け取った情報を脳で変化させ、筋肉に伝え行動する。行動は環境に変化を与え、変化した環境からの情報を脳が受け取る。信号はぐるぐると回り続けます。情報は循環する波で構成されているのです。
 次のようなものをイメージしてください。一定時間放置すると自動的に立ち上がるドミノです。そのドミノを円に並べて倒します。もし、一周するより早く立ち上がるならば、そのドミノは永遠に倒れ続けます。こうした作用を天文学的に複雑にしたものが精神──心であるといえるでしょう。この場合に、立ち上がる作用に相当するのが生命です。
 行動が環境に与える変化はそれほど大きくはありません。環境から受け取る情報は、行動とは関係のない新しい情報がかなりあります。ですから、環境から入力される情報は新しく追加され少しずつ変化します。
 心とは、絶えず新しい情報が追加される、循環する波です。それをイメージしてみるなら台風とか竜巻がよいでしょう。竜巻が生まれるのは何かのきっかけがあるはずですが、いったん竜巻が回り出すと、それ自身によって自己生成的に動き出します。動き回る竜巻は、発生した場所とはもはや関係がなくなり、自らの意志をもつかのようです。竜巻は物質の回転ですが、情報の回転するものが心といえるでしょう。
 竜巻はどうして予想しにくい動きを見せるのでしょうか。
 それは竜巻が相互作用系でかつ開放系、すなわちカオスだからです。カオスは、初期設定の影響が半永久的に作用し続けるシステムです。心もまた同じくカオスのため、その作用は極めて複雑になります。
 生命はDNAの化学変化が生み出す遺伝子の複製作用であり、精神は、遺伝子の複製作用が生み出す情報の循環作用です。そして生み出された作用は、その元の作用には依存していません。すなわち、DNAの化学変化のかわりができるものがあれば生命の作用は可能であるし、遺伝子の複製作用のかわりができれば精神の作用もまた可能です。人工ニューロンはそれに相当します。
 生命活動が多細胞生物になることにより、心は誕生したといえます。神経細胞の奏でるハーモニーが心なのです。心は物質の運動状態を伝達する共振作用であるもいえるます。生命は、その活動の効率を高めるために心を生み出したのです。
 川の流れには、石に当たるなどして渦ができては消えます。ビッグバンより始まる時の流れが、生命という石に当たって生まれる渦、それが心なのです。