Q11.言葉は何で構成されているか?

A.言葉は5種類のフレーズの組み合わせで構成される

 言葉は脳の思考のループ回路で循環しています。このループの一周に対応する構造が言葉にあります。それがフレーズです。
 フレーズは、文よりも小さく単語よりは大きいもので、文を構成する要素です。その内容により、主題フレーズ、述語フレーズ、語説明フレーズ、句説明フレーズ、文説明フレーズの5種類があります。
 
主題フレーズ
 話題となる対象を示し、その多くは主語に相当します。冠詞もしくは名詞から始まります。日本語:〜はの部分です。英語:固有名詞、The 〜、 強声の代名詞などが典型例です。
 
述語フレーズ
 話題対象の変化や状態について述べています。使われる動詞が他動詞としてはたらいている場合は、動詞、助動詞、副詞から始まります。自動詞としてはたらいている場合は冠詞もしくは名詞から始まります。主語と自動詞、他動詞と目的語はセットになります。他動詞+目的語、代名詞+自動詞、代名詞+他動詞+目的語などが典型例です。
 
語説明フレーズ
 ある一つの単語を述語を使って補足説明するフレーズです。日本語では文をそのまま直前に置きます。英語は関係詞で導き直前に置きます。音の切れ目は少な目で、間を空けても息を切らないで続けて話します。
 
句説明フレーズ
 ある一つの句=フレーズを説明するフレーズです。話題の舞台である場所や時間を示します。日本語:〜のために、〜へ、〜で、など。英語:前置詞から始まります。to不定詞や、前置詞+場所が典型例です。説明する句に隣接していなくても構いません。
 
文説明フレーズ
 ある一つの文を説明するフレーズです。文全体を説明する場所や時間、話者の意図や意見を示し、言葉の流れをスムーズにするものです。日本語:ところで、しかし、〜では、〜において、など。英語:but, and, の他、I think, don't you know などコメント節も文説明フレーズに入ります。
 
 例を挙げましょう。
 
 In many business district, / there are a lot of vacant lots / which have been for sale for years.
  文説 / 述語 / 語説
 多くの商業地区では / 数年間売りに出されている / 空き地がたくさんある。
  文説 / 語説 / 述語
 
 For years / the press / overlooked the problem. / But now, / if anything, / they are making too much of it.
 文説 / 主題 / 述語 / 文説 / 文説 / 述語
 過去数年間 / 報道機関は / その問題を見過ごしてきた / しかしいま / むしろ / そのことを重視し過ぎている。
 文説 / 主題 / 述語 / 文説 / 文説 / 述語

Q12.思考の最小単位は何か?

A.フレーズが思考の最小単位に対応する

 5つのフレーズの内の、述語、主題、句説明の3つのフレーズの組み合わせにより、構文のパターンが決まります。残りの語説明、文説明のフレーズがありますが、これはこの4文型のバリエーションとして考えます。フレーズの切れ目に / を入れた文で考えてみましょう。
 
 1.述語文
 鳥が飛ぶ。
 A bird flies.
 
 2.主題−述語文
 象は / 鼻が長い。
 The elephant / has a long trunk.
 
 3.句説−述語文
 東京で / 買い物をした。
 3e.述語−句説文(英語)
 I did some shopping / in Tokyo.
 
 4.主題−句説−述語文
 山田は / 大学で / 心理学を専攻した。
 4e.主題−述語−句説文(英語)
 Mr.Yamada / majored in psychology / at the university.
 
 この四文型は日本語、韓国語、中国語に共通ですが、英語では句説明フレーズの配置が違うため3e.4e.のようになります。また、英語の代名詞は強く発音しない限り主題になりません。
 ここに語説明フレーズや文説明フレーズが追加されることがあります。
 語説明フレーズは、ある単語を詳しく説明したい場合に使われます。日本語と韓国語の場合は説明する言葉の直前に、英語の場合は直後に、中国語では基本的に前に置きますが後ろに置くケースもあります。
 文説明フレーズは、言葉の流れを良くするために文と文のつなぎとして使われます。日本語では文末か文頭に、英語と中国語では文頭に置かれます。
 英語の文説明フレーズには、全く同形のままその句説明フレーズとしても使えるものがあり、その場合はコンマで区切って使用します。

英語の代名詞は単独ではフレーズを構成しない
 英語のフレーズ構成で、日本人に理解しにくいのが代名詞と主題フレーズの使われ方です。英語は、文の中の位置で言葉の意味関係を決める言葉なので、そこに置く言葉がない場合も、何かを置いて穴埋めしないと文になりません。そのときに代名詞や副詞などが使われるのですが、この穴埋め用法の代名詞はほとんど意味を持たないため、フレーズを形成しません。
 
 There is a cup / on the desk.
   述語      句説
 
 机の上に / コップがある。
  句説   述語
 
 これは主題のない文です。英語でも日本語でも主題はありません。ただ、日本語では状況が先に提示されます。ふと、机の方を見たらコップがあるのに気がついたわけです。意図的に発話されたものではなく、その情報により引き起こされた言葉の多くには主題フレーズがありません。
 
 The cup / is on the desk.
  主題   述語
 
 コップは / 机の上にある。
  主題   述語
 
 こちらには主題フレーズがあります。誰かがコップを探していたので、コップについて述べたのです。話者はまさにコップについて話したかったので、主題としてコップが提示されているのです。
 ただし、代名詞で混乱を招きやすいことは、声を強くすることで主題化するという方法があることです。
 
 He is a student.
  述語
 
 学生だよ。
  述語
 
 He / is the criminal.
  主題   述語
 
 彼が / 犯人だ。
 主題   述語
 
 この強声による代名詞の主題化と同じ現象が、日本語の強声による“が”の主題化です。日本語では、主題フレーズを作る方法として、“は”を使う方法と強声の方法があり、英語では代名詞の強声と、それ以外を主語におく方法があります。
 このとき、強くいうだけでなく、その直後に間があるのが特徴です。代名詞+助動詞やbe動詞の短縮形があるのは、主題化のための間との対比をつけるためでもあります。英語の代名詞には、指示用法と穴埋め用法があるわけです。
 英語話者といえど、I love you.(愛してるよ)というとき、I, Love, You, の3項目を意識しているわけではありません。日本語話者も英語話者も「愛してる」という一つの思考単位なのです。しばしば、日本語は主語がない曖昧で論理的でない言語と言われますが、むしろ英語の方が実際の思考内容と対応しない冗長な言語なのです。

フレーズは思考を示す
 フレーズというのは、話者がどんな思考をしたかを示しおり、文そのものによって決定されるわけではありません。
 
 Equality / is guaranteed by the Constitution.
 平等は / 憲法で保証されている
 
 これは標準的な分割パターンです。しかし、平等は何によって保証されているか、との質問に答える場合なら、
 
 Equality is guaranteed / by the Constitution.
 
 となりますし、平等というのは何か根拠があるか、との質問に答えるなら、
 
 Equality is / guaranteed by the Constitution.
 
 となるでしょう。
 
 また、言語は上達することで、複数のフレーズを1つにまとめて認識するようになります。
 ことわざの「一石二鳥」
 to kill two birds with one stone
 
 は、その内部を見ると、to kill two birds / with one stone ですが、実際には1フレーズとして認識し発音します。すなわち「効率良く」という感じに使うと1フレーズですし、「1つの石で2羽の鳥を殺す」なら2フレーズなのです。こうした感じで、もともと複数のフレーズだったものが1フレーズにまとめられることがあります。
 一見、フレーズ分割というのは、恣意的であるように見えるかもしれません。しかし、それは話し手にとって恣意的なのであり、既に発話されたなら、それは恣意的ではなくなります。聞き手にとって恣意性はまったくありません。

Q13.言葉の意味とは何か?

A.意味とは行為のこと

 脳では、言葉はフレーズの大きさではたらいています。では、フレーズの中にある単語とは何でしょうか。単語の持つ意味とは何なのか考えてみましょう。
 言葉の意味と言われると、どんなことを答えるでしょうか。一般的には、「猫」の意味は何かと問われれば、実物の猫を指さして見せたりするでしょう。すなわち、実際に存在する物体を指して見せるわけです。
 しかし、これだと答えられないものはたくさんあります。たとえば、「愛」の意味と問われて何かを指さす人はいないでしょう。指し示す対象は意味ではないのです。
 対象は意味ではない。これは大事な区別です。
 では意味とは何でしょうか。これは、「意味」という言葉をどのように使っているか考えるとすぐにわかります。たとえば、
「そんなことをして何の意味があるのか?」
 と、聞かれた場合、そのことをした後にどんなことができるか述べるでしょう。
「英語を勉強することに何の意味があるのか?」
 と、聞かれれば、
「外国人と会話することができる。世界中の人々と知り合いになれる」
 などとそこから生まれる行為を答えます。意味=行為なのです。
 それにたいし、
「俺はバカだから、英語なんて習得できない。英語の勉強なんて無意味だ」
 と、答えるかもしれません。この人にとっては、何ら行為が生み出されない、すなわち、意味が生まれないので無意味なわけです。すなわち、「英語の勉強」ということでも、意味は一人一人違うわけです。
 しかし、この人に「英語の勉強」の意味を問えば、「単語や文法を暗記すること」と答えることができるでしょう。すなわち、「英語の勉強」の意味は知っているわけです。
 この場合の「単語や文法を暗記すること」はこの人から見た「英語の勉強」の普遍的な意味であり、無意味というのは個人的な意味なわけです。
 しかし、では「猫」の意味とは何でしょうか。「猫」という生き物そのものは意味ではなく対象です。「猫」の意味とは、猫に関連したときに生まれる行為のことです。撫でたり飼ったりするのが意味なのです。もしも、猫でも犬でもどんなペットでも同じように接する人がいたなら、その人にとっては猫や犬という言葉には特別な意味はありません。「ペット」の意味しかないわけです。
 この人に猫のすばらしさを訴えても通じないでしょう。すなわち、この人には猫特有の意味は通じないわけです。意味は一人一人が生み出す行為であり、それは一人一人違っていて共通する部分もあるが共通しない部分もあることがわかります。

Q14.理解とは何か?

A.自分の行動可能性を見いだすこと

 普遍的な意味を知るということは、そのことを理解するということでもあります。何かを理解するということは、その何かに関連する行為を知るということで、完全に理解したならばその関連する行為をすべて知り尽くしたということです。
 たとえば、Aということを理解したなら、ある状況においてAを適用すると何が起こるかわかります。
 友人のAさんをよく理解しているなら、どんな場所や状況でどう振る舞うかわかります。数学の公式Aを理解しているなら、Aにどんな数字を入力しても答えを出すことができるということです。
 もし、その事柄をいかなる状況に当てはめてもわかるなら、100%理解しているといえます。ある状況だけでしかわからないなら、少し理解できたといえます。こうした結びつきの多さが、理解の浅さ深さといえ、それは0〜100%と表現できます。
 何が起こるかわかるということは、そのとき自分が何をすべきかわかるということです。「わかる」というのは、自己の行動可能性の分岐、すなわち何かについて行動を決定できるようになることなのです。

Q15.思考とは何か?

A.思考は未来の自分への命令

 そもそも人間はなぜ言語を話すのでしょうか。動物にも言語に似たものはあります。いろいろな信号を出して仲間に感情を伝達したり、情報を伝達したりしています。また、チンパンジー、イルカ、オウム、ボノボなど知能の高い動物には、人間の言語に近いものが習得できる可能性が指摘されています。
 進化の歴史では、淘汰により生存に有利な能力が発達します。言語もまたその生物にとって有利であったから生まれたわけです。では言語の利点とは何でしょうか。
 それは、言語を使うことにより他の同胞の個体を操作し行動を変えることができるということです。何か指示を出したりお願いしたりすることで、仲間の個体はそれに応じて行動してくれます。それまでの動物たちの鳴き声やディスプレイよりもはるかに精密に行動を調整することができます。これにより効率的な集団行動することができるから有利なわけです。
 言語による行動調整作用は、他個体だけとは限りません。自分自身にすら向けられます。それが独り言です。あるいは、計算するときに数字を読み上げたりすることです。言語を使うことで、未来の自分の行動を変えているのです。
 そして、独り言として未来の自分の行動を調整するためなら、実際に発音する必要はありません。思考の言語として内語となるわけです。思考は未来の自分への命令であるということができます。

Q16.語の意味とはどんなものか?

A.意味の完全性−不完全性スペクトルがある

 言葉を構成する要素に単語があります。言語を行動調整作用と考えたとき、単語の品詞によってその力が違うことがわかります。
 たとえば、「逃げろ!」という言葉は相手の行動を強く変化させますが、「逃避」ではよくわかりません。動詞は単独で言語として機能することがあるのに対し、名詞には言語として機能しないわけです。名詞では行為が生まれない、すなわち、名詞そのものには意味がほとんどないということです。これは、動詞は単独でも文を構成することができるが、名詞は単独では文たり得ないということでもあります。
 言語はその起源的には、他の個体を操作する信号です。ですからこれを最も理解しやすい方法は命令形を考えることです。
 文法を考えるとき、文の完結性の問題があります。命令形の文の場合、自動詞は動詞単独で文を構成できますが、他動詞なら目的語と動詞で構成されます。もし他動詞に目的語が欠けていると、意味のはっきりしない文となります。
 
「走れ!」「 Run!」
 これは走るのだなと理解できます。
 
「投げろ!」「 Throw!」
 投げろって、何を? と困惑させられてしまいます。すなわち、意味が不完全なのです。もちろん、
 
「石を!」「 Stone!」
 でも困ってしまいます。石をどうしろっての? というわけです。やはり、
 
「石を投げろ!」「 Throw a stone!」
 と、言ってもらわないと困るわけです。

 これで名詞が意味を持たない理由がわかるでしょう。名詞は完全な意味を持つ文の破片であり、一部分にすぎないのです。意味を構成する要素の一部なのです。そのため、名詞は意味が不完全なのです。
 どのような文が完全な意味を持つか考えますと、
 
 自動詞
 目的語名詞+他動詞
 副詞+自動詞
 目的語名詞+副詞+他動詞
 形容詞+目的語名詞+他動詞
 形容詞+目的語名詞副詞+他動詞
 ‥‥‥
 もちろん、これはいくらでも長くすることができます。

Q17.モノの名前とは何か?

A.モノの名前とは行動のための分類

 こうした組み合わせになってはじめて明解な意味を持つことがわかります。自動詞以外は、完全な意味を持つ文の破片であり、不完全な意味しか持たないということ、単語には意味の完全性の度合いがあることがわかるわけです。
 こうした品詞の構造には脳の構造との対応があります。脳というのは、環境情報を分類して行動へと変化させる装置です。その経路における作用と品詞には対応があるのです。
 脳の信号の基本ルートの一つに、感覚野⇒感覚連合野扁桃体前頭前野⇒運動連合野⇒運動野があります。そして、それにたいして、名詞⇒形容詞⇒感情動詞⇒副詞⇒行為動詞の組み合わせを考えます。すると、名詞は感覚連合野に、形容詞も感覚連合野だが扁桃体近くに、感情動詞は扁桃体に、副詞は大脳基底核に、行為動詞は前頭前野と対応すると考えられるのです。
 他にも、神経心理学の研究から日本語の助詞や英語の前置詞はブローカ野に関係することがわかっています。
 名詞が感覚連合野と関連することについては、失語症や健忘症の研究から明白です。感覚連合野は、モノの弁別などにも関係します。
 脳は、まず環境情報を分類し行動へと変化させるわけですが、その分類の部分と名詞に対応があります。名詞が示す対象とは、行動のための分類のことなのです。
 そのため、語彙の分類の細かさは、その言語世界における必要性に応じて異なります。日本語では魚扁の漢字がたくさんあることでわかるように、魚の種類がたくさん分類されています。これは、それぞれに違った捕り方や調理法があるからです。フランス語などでは、肉の部分の名前が細かく分かれています。イヌイットがたくさんの雪の種類を示す言葉を持っていることは有名です。これらはすべて、その言語の使われる世界では、それらを違った行動へと結びつける必要があるために細かく名詞が分かれているのです。対象といっても具体的に何かを指すのではなく、あくまでも分類と区別の体系であること、これが名詞の特徴なのです。
 意味について考察したものを読むと、その多くは名詞が単純であるという誤解に基づいているようです。しかし、名詞よりもより本質的なのが動詞、特に自動詞です。
 たとえば、「鋏」という言葉について考えます。これを定義するのに対象を指し示すだけではだめです。見た目が同じ形をしていても動かない構造をしていては「鋏」ではありません。切る動きができなければ、
「こんなの鋏じゃない!」
 と、それを投げ捨ててしまうでしょう。「鋏」を定義するには「切る」という言葉を使わなくてはならないのです。となると、「鋏」は既に「切る」という意味の上に積み上げられたものであることがわかります。名詞は動詞よりも情報量が大きいのです。名詞の示す対象は分類であって、それ自体ではないのです。
 一般に生まれやすい勘違いが、固有名詞が最も単純で、次に名詞、そして動詞はもっと複雑という考えです。実際には、一番簡単なのは動詞、特に自動詞で、次に名詞、固有名詞と全く逆の順序です。
 固有名詞、例えば「アインシュタイン」について考えると、本人を指しているのだから簡単というのは浅はかです。「アインシュタイン」には、その本人にまつわるあらゆる情報が含まれています。生没年から、20世紀を代表する天才、あの舌を出したポーズなどなど、アインシュタインに関連する行為は限りなくあり、そうした行為の集合体としてアインシュタインという言葉の意味があります。ある人を「平成のアインシュタイン」と呼べば驚異的天才の意味で使うわけです。固有名詞が数え切れないほど多数の行為による複雑な構成概念であることがわかります。
 行為と対応するのは命令形にすることが可能な文だけです。一語文が可能な自動詞を除いて、単語にはそれ自体と対応するものはなく、その行為へと導く分類のみがあります。